
本人にとっては「全く納得していない」という判定勝ち。だが、そのコメントこそが井上尚弥の強さを際立たせているとも言える。
サウジアラビアの首都リヤドで行われた『THE RING V:NIGHT OF THE SAMURAI』のメインイベントとして行われたスーパーバンタム級4団体統一タイトルマッチ。王者・井上尚弥(大橋)にとっては世界タイトルマッチ27連勝を懸けた一戦で、勝利すればジョー・ルイス、フロイド・メイウェザーを抜いて世界戦連勝記録の歴代単独トップに立つ節目の試合でもあった。
対戦相手は世界初挑戦ながら33戦32勝1分と無敗をキープするWBC同級2位アラン・ピカソ(メキシコ)。これまで31戦全勝27KOという戦績を誇る井上は同試合を「今後のキャリアを加速させていく一戦」と位置づけ、「冷静にボクシングの美しさを見せながら、ときに残酷さ、荒々しさ、そういったものをすべてミックスして勝ちたい。綺麗な展開でKOを狙っていく」と宣言していた。そして試合は井上が「ボディで倒す」と語り、ピカソは「防御が一番重要」、と話してていたとおりの展開となっていく。
開始のゴングからガードを高く上げて距離を詰めようとする挑戦者。井上は「何がピカソにフィットするのかと思って、まずは様子見というか、どんな構え、どんなスタイルが合うのか」と考え、距離感や戦い方を見極めようとしていく。
井上が様子見の1Rを経て感覚をつかんだのか、2Rは一気に間合いを詰めて左の上下コンビネーションからの左右連打。さらに左フックを見舞い、さらに強烈なショートパンチを打ち込む。前に出てきたピカソをいなすと、右ストレートからの左ボディ連発、さらに外回りの右と、軽快なフットワークと多彩な軌道を描くパンチでピカソを翻弄。相手のパンチを見極めて完璧なガードとスウェーで有効打を許さない。ガードを高く固めるピカソに対し、ボディを打ち込んでから両腕のガードをこじ開けるような形でジャブとストレートを狙っていった。
その後もピカソの高いガードは変わらず。井上は左のボディやジャブで相手のガードを下げさせるように仕掛け、右アッパーや左フックを交えたコンビネーションで追い込みながら打開を図る。チャンピオンが相手の動きを見ながらガードを下げるシーンも増えていった。
7Rは井上がフットワークで間合いを取り、再び距離をコントロールしていく。ガードを下げながら相手の出方をしっかりと見極め、フリッカー気味のジャブを含めたパンチを見舞うなど、相手に有効打を許さないラウンドに。
その後、ガードを固めて前に出てくるピカソに対して、井上は自らの距離感を保ちながらリズムを作る。ガードの上からでも構わず強打を放ち、前へ圧力を掛けてきたピカソに対してガードを固め、一気に頭で押し戻すシーンも見られた。チャンピオンは常に「見る」という作業を徹底し、相手のパンチを見きったようにかわしてボディを狙う。さらにピカソが少しずつガードを下げてパンチが大振りになるケースが見られるようになってきたことを受け、9R終了後に父の井上真吾トレーナーから「打ち終わりを狙え」と指示を受けると、接近戦でも相手のパンチを見極め、距離とパンチをコントロールするような展開に持ち込んでいった。
終盤には足を止めて打ち合うシーンが増え、ピカソも手数を増やしたものの有効打は打てず。最終ラウンドまで両選手ともに動きが落ちることなく、最後は互いに打ち合う中で終了のゴング。ともに12Rを戦い抜いた末に判定へともつれ込んだが、一人がフルマークをつけるなど3-0(120-108、119-109、117-111)で井上尚弥が完勝を収めた。
これで史上最多となる世界戦27連勝という偉業を達成。KO宣言こそ実現できなかったが、多彩な軌道を描くパンチ、間合いをコントロールするフットワークなど、高い技術を見せつけて内容で圧倒し、ピカソの奮闘もあって技術戦の好ゲームとなった。
それでも本人は「今日は全体的に良くなかった。ベストコンディションで挑んだけど、打ち急ぎすぎたと言うか、集中力に欠けるというか。自分としては差を見せてしっかり倒し切りたかったという思いはあるんですけど、期待に応えられず、自分自身がやりたかったボクシングはできなかった。内容的に余裕はあったんですけど、打たせないボクシングが徹底できず、そこは自分の弱みだなと感じた」と今後の課題に言及した。
だが、強さを発揮しながら反省の弁が並ぶのは、さらなる高みを目指すからこそ。今後は同日のセミファイナルで勝利した中谷潤人とのビッグマッチに照準を定めるのか、それともフェザー級に上げて史上初の5階級4団体統一王者を目指すのか。
試合後のリング上で「今夜、お互いに無事に勝利することができたので、大橋会長を含めていろいろと相談していきたい。日本のファンの皆さん、期待はしていてください!」と語り、Lemino中継内のインタビューでは「会長が今日の試合を終えてどう交渉に進むか。自分は決められた試合をやるだけ。ただ、日本が盛り上がるような試合を実現させていきたいと思っている」とコメントを残した井上。「今後のキャリアを加速させる一戦」と位置づけていた試合を制し、ボクシング史上に輝く記録を達成した最強王者の今後から目が離せない。
【制作・編集:Blue Star Productions】
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